はるか1000km先にある東京 豊かな海で獲れる小笠原の魚たち
JR浜松町駅から徒歩7分の場所にある竹芝ターミナル。 高層ビルに囲まれたこの場所から、南方へ1000kmの船旅でたどり着くのが、人口約2000人の小笠原村・父島。 亜熱帯気候のこの地域では、南国らしいフルーツ栽培とともに、戦前から漁業が発展してきました。 世界自然遺産にも登録された海域で営まれる小笠原の漁業に迫ります。
大海の恵みを求めて集まる魚たち
小笠原周辺の海域は、本州から遠く離れていることから漁船数が限られ、漁場環境が比較的保たれているのが特徴です。
黒潮本流から少し外れた位置にあり、北からは本マグロ、南からはキハダマグロやビンチョウマグロといった大型回遊魚が集まります。
さらに、硫黄島のある西側には魚が住みつきやすい海底火山帯があることや、東側では水深6,000mを超える日本海溝から栄養豊富な海水が湧き上がるなど、地理的条件にも恵まれています。
主に獲れるものは、小笠原島漁協組合の漁獲量全体の3、4割を占めるメカジキのほか、キハダマグロやビンチョウマグロ、近海に生息するオナガダイ、全長70~80cmにもなるソデイカなどです。
ボニンブルーの海に惹かれて メカジキ漁師のくらし
平井修さんは、漁師歴27年のメカジキ漁師です。「ボニンブルー」とも呼ばれる小笠原特有の深い青色の海に魅せられ、出身地の東京都武蔵村山市から父島へ移住しました。
水深約500mの深海に生息するメカジキを獲るために用いるのが、「縦延縄(たてはえなわ)」という漁法。海の奥深くに向かって重りのついた縄を沈め、縄から伸びる複数の枝縄に針をしかけ、メカジキを狙います。
出航は深夜2時ごろ。魚が活動を始める日の出に合わせて沖に向かい、縄をしかけます。漁の間は日の入りとともに体を休め、船上で寝泊まりしながら3~4日間海に出るのが主流です。長年の経験から、海のコンディションを見ればどこで釣れるかがわかるといいます。
現在、小笠原島漁業協同組合に参加する漁師は40名ほど。ベテラン層に加え、20~30代の「乗り子」と呼ばれる若手漁師たちがいます。
村外からの担い手を受け入れてきた小笠原の漁業
「小笠原の漁業には、古くから村外の人も広く受け入れてきた歴史があります。独立を視野に入れやすい点も特徴のひとつです」
小笠原島漁業協同組合では、毎年全国で開催される漁業就業支援フェアへの出展や島主催の漁業体験を実施しているほか、SNSを使って新たな仲間を募集しているとのこと。積極的な活動のおかげで、東京だけでなく全国から毎年漁師志望者が集まるそうです。
こうして戦前から続いてきた小笠原の漁業。その根底に、「遠く離れていてもおいしさに妥協しない」島のこだわりがあります。
遠隔地だからこそ鮮度には徹底的にこだわる
小笠原から「内地」と呼ばれる本土への輸送は、週1便の定期船が基本です。水揚げから市場到着まで一定の時間を要するため、小笠原の漁師たちは出航日に合わせて漁の工程を組みます。
鮮度管理は釣り上げた瞬間からが勝負。
メカジキの場合、釣り上げてすぐに脊髄にワイヤーを通す「神経締め」を実施し、即死させます。水揚げ時に暴れて身が傷むのを防ぐほか、死後硬直を遅らせて鮮度を保ちます。さらに、船上で頭と腐敗のもととなる内臓を取り除き、水に直接触れないよう1本ずつビニール袋に入れ、氷水を張った魚槽で低温管理しながら島へ戻り、本土へ出荷されます。
また、漁師たちは年に一度豊洲市場などに直接赴き、取引先から魚の鮮度状況をヒアリング。取引先の声を聞きながら、保冷状態や梱包資材の改良に取り組んでいます。
各地で評価が高まる小笠原の魚
こうして届けられる小笠原の魚は、豊洲市場をはじめ各地で高い評価を得ています。主力のメカジキは、国内有数の水揚げ地である気仙沼市場でも取引実績があります。
もうひとつの代表魚であるオナガダイも、脂のりが良いとして都内の和食料理店などで刺身や蒸し料理、煮付けなどに取り入れられています。
また、近年は小笠原産の認知度を高めるため、魚に釣り上げた漁船名入りのステッカーを貼って出荷されるようになりました。
「自分たちの顔が見える状態で届けるようになり、漁師たちの意欲が高まりましたね」
平井さんはそう変化を感じていると言います。
変わりゆく海と漁業を取り巻く環境
一方で、海洋環境の変化も指摘されています。周辺の環境変化が少しずつ小笠原の魚に影響を及ぼしているとのこと。
平井さんによれば、以前は年に3、4本獲れた200kgを超える巨大メカジキが、今では滅多に見られなくなったそうです。また、夏の海水温は体感的にも上昇したといいます。
「過去の平均28℃から30℃程度まで上昇しています。海の中で過ごす魚たちにとって、2℃の温度上昇の影響は決して小さくないはずです」
さらに、燃料費や漁具がこの20年で値上がりし、水揚げの収益も減少傾向にあります。負担を少しでも減らすため、出航は必要以上のスピードを出さずにエンジンの回転数を抑えて運行したり、船底に付着する牡蠣などを定期的に清掃して水の抵抗を減らしたりするなど、日々工夫を重ねながら漁を続けています。
私たちがこうした背景を知ったうえで魚を選ぶことは、漁師や漁場の応援につながります。
小笠原の魚をおいしく食べよう
漁師が教える小笠原の魚の食べ方
平井さんに、小笠原の魚のおいしい食べ方を伺いました。手に入ったらぜひ試してみてください。
メカジキ
冬の時期は脂のりが抜群で、バターを使わずソテーするだけでも十分おいしい。フライもおすすめ。
マグロ類
刺身や唐揚げが定番。茹でて身をほぐし、マヨネーズ・塩こしょう・さらし玉ねぎを和えた自家製ツナも美味。
オナガダイ
刺身がおすすめ。かぶとや背骨があれば、潮汁にするとその旨みが存分に味わえます。
ソデイカ
冬場が旬で、独特の強い甘みが特徴。薄く切って刺身に。
小笠原の魚が食べられる場所はこちら
なかなか行くことができない小笠原。1,000km先の海で育まれた「東京の魚」を、ぜひ味わってみてください。
島で食べる
東京島じまん食材使用店
島以外で食べる
とうきょう特産食材使用店
東京愛らんど
東京農林水産ファンクラブでは、東京の漁業を知ってもらうためのイベントを実施しました。
イベントレポートと参加者の感想はこちらをご覧ください。
取材協力
小笠原島漁業協同組合 平井修(神源丸)
東京都武蔵村山市出身。23歳で出会ったクジラの写真集をきっかけに小笠原の海に惹かれて移住を決意し、漁師の道へ。親方の元でマグロ漁を学び、1週間以上にわたる船上生活を通して、漁の基礎や漁師としてのくらしを身につける。10年の修行を経て自身の船「神源丸」を持ち、メカジキ漁師として独立。
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