生きる力を学ぶもう一つの教室
~子どもと訪れたい東京農業体験~
広い畑で野菜を収穫する。東京ではできないと思われるかもしれませんが、そんな場は東京にも存在します。とくに、子どもにとっては自然に触れ、食べものへの関心を育む絶好の学び場。また、畑作業を通じて普段は関わらない人たちと交流する経験も、農業ならではの良さです。
いろいろな人がいる東京に集まる場を作りたい
練馬区出身の若松屋代表・赤塚功太郎さんは、2022年4月に農家としての歩み始め、東京で農業に取り組む面白さを日々感じています。大学卒業後に近所の農園で働いたのをきっかけに、東京農業アカデミー八王子研修農場で本格的に農業を学びました。農業以外にもサッカーや音楽など幅広い趣味を持つ赤塚さんにとって、情報発信の中心である東京で農業ができるのが楽しいといいます。
「単に好きなものやことに触れやすいだけでなく、畑に集まる人もさまざまなんです。サッカーをやっている人もいれば服を作る人もいる。いろんな人が集まりやすいのは東京の面白いところだと思います」

アルバイト時代に、子どもも大人も受け入れてくれた光景が忘れられないという赤塚さんは、農園を人が集まれる場にしたいと考えているそう。そのため、給食や生協への出荷、マルシェなどでの販売だけでなく、畑に多くの人が訪れる体験にも力を入れています。
援農や収穫体験で人が畑を楽しみながら集まれる場に

赤塚さんが管理している武蔵村山農場は、8反(約2,400坪)という広さ。農業に興味がある人を広く受け入れたいと、援農ボランティアを活用しています。ボランティアには、学生や主婦、高齢のご夫婦など幅広い年代の方が集まるそう。また、近隣の方ばかりでなく、都心から来る方も多いようです。
また武蔵村山市の中学生に向けて、職場体験の受け入れも実施しています。畑の草取りや収穫を体験し、想像以上の作業に力尽きてしまう生徒もいれば、帰りたくないほどのめり込んでしまう生徒もいるそう。
さらに、2025年4月には地元・練馬区でも農園をスタート。住宅が立ち並ぶ一角にあるため、地域の人たちが足を運びやすいといいます。
「秋にさつまいも掘り体験を開いたところ、2日間で235名もの人たちが集まってくれました。近隣の方々だけでなく、地元の友人も集まって収穫を楽しんでくれて嬉しかったですね」
自然で遊び学ぶ 子どもたちのもう一つの教室
赤塚さんに農園に訪れる子どもたちの様子を聞くと、畑にあるさまざまなものに興味があるようです。
「畑にいる間はずっと走りまわったり、土に寝そべったり、トラクターに乗って遊んだりしています。収穫以外でも畑を満喫していますね」
広大な畑は、子どもにとって体を思い切り動かし、全身で自然を感じる格好の場。全く面識のない子たちが、遊んでいるうちに打ち解けて仲良くなっているといいます。
練馬区の農園では、保育園児たちのさつまいも掘り体験にも協力しました。きっかけは、たまたまSNSを見た保育園の先生からのメッセージ。「こんな近くに畑があってよかった」と喜ばれたそうです。
武蔵村山市では小学校で小松菜の出張授業も担当しています。

「どんな肥料を使ってるんですか」「なぜ肥料を使うのですか」「どういう機械を使って作業をするんですか」「収穫する時間は何時がいいんですか」
次々に出てくる質問に、子どもたちの小松菜や畑への強い好奇心を感じたそうです。
子どもたちは校庭の脇にある小さな小松菜栽培スペースで、実際に種まきから収穫までを体験。 はじめは緊張した手つきだった子どもたちが、徐々に慣れて楽しそうに小松菜に触れる姿に、赤塚さんも嬉しかったと話します。学校の先生によると、小松菜栽培を経験したことで、給食に小松菜が出ると子どもたちの目の色が変わるようになったそうです。
「ふだん食べている野菜がどうやって育ち、収穫され綺麗になって店頭に並んでいるのかを実際に見てほしいんです。店頭に並んだ状態や料理になった状態よりも、野菜に対するイメージが変わるはず」
畑は生きる力の土台をつくる
ふわふわした土を踏みしめながら畑を歩いて土や野菜に触れていると、五感が心地良いと感じているのが分かります。

実は、赤塚さん自身、やりたいことが見つからず自宅に引きこもっていた時期があったそう。疎外感から自己嫌悪に陥っていた赤塚さんを変えてくれたのが、農業でした。
「畑で体を動かしていたら、徐々に元の自分に戻っていくのを感じました。また、畑は子どもも年配の方も分け隔てなく関わり合える。ここに自分の居場所があると思ったんです」
すべての人にとって、食べることは生きていくために必要なもの。農業は生きていくための根幹といえます。だから、年齢や考え、価値観の違いはあってもみんなが一緒にいられると、赤塚さんは考えます。
そんな自分を変えてくれた農業を自分らしい形でもっと広めたい。そう考えた赤塚さんは、自らデザインしたオリジナルTシャツを作りました。
「農業ってかっこいいと伝えたいんですよね」

Tシャツを買ってくれた人たちが実際に畑に来て一緒に作業をしていると、チームのような一体感があるのだとか。
赤塚さんは農園を子どもも大人も集まる場所にしたいと考えて日々活動しています。
子どもたちと関わるすべての方々へ
赤塚さんが話すように、子どもにとって畑は絶好の体験の場です。広い畑で走り、自分の手で野菜を掘り起こすのは、自然の中で過ごす気持ち良さや野菜をもっと身近に感じられるきっかけになります。
農業が生きるための根本的な営みの一つであることを伝えるために、ぜひ体験を利用してください。
取材協力
若松屋 武蔵村山農場・練馬農園 代表 赤塚功太郎さん
公益財団法人東京都農林水産振興財団が運営する東京農業アカデミー八王子研修農場で農業を学び、2022年4月武蔵村山市に就農。生活クラブや給食、マルシェなどの販売のほか、収穫体験やオリジナルグッズ販売も手掛ける。2025年には地元練馬区のサポートを受けて2つ目の農園をスタート。学生時代から好きなサッカーと農業をつなぐのが夢。
東京農林水産ファンクラブが出店する東京農林水産マルシェにも参加
https://www.tokyo-aff-fc.jp/marche/detail/id=1014
取材・撮影:みつはしさなこ

