東京で出会う、南国の果実 パッションフルーツの魅力を探る(前編)

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公開日:2025年07月09日
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甘酸っぱい香りとゼリー状の果実、プチプチした種が特徴のパッションフルーツ。
実は、東京都は国内のパッションフルーツ生産量で全国第3位だということをご存じでしょうか。
東京の島しょ部、伊豆諸島や小笠原諸島は亜熱帯に近い温暖な気候で、パッションフルーツの栽培に適しています。最近では八王子市などの本土側でも育てられるようになりました。
今回は、伊豆諸島の三宅島でパッションフルーツを育てている「東山農園」の前田洋一さんにその魅力を伺いました。

東京で育つ熱帯の果実を知っていますか?
──パッションフルーツ探訪

火山の島から届く南国の味


パッションフルーツの花
写真提供:前田洋一

三宅島でパッションフルーツが育つ理由とは?

パッションフルーツは時計のような花を咲かせるトケイソウの仲間。和名はクダモノトケイソウ(果物時計草)といいます。英名passion fruitのpassionは情熱の意味ではなく、花の形が十字架にかけられたキリストの姿に似ていることから「(キリストの)受難」と名付けられたといわれています。

原産地はアメリカ大陸の亜熱帯地域です。そこからも想像がつくように、栽培に適しているのは熱帯から亜熱帯の温暖な気候。三宅島は周囲を流れる黒潮の影響で温暖多雨な海洋性気候です。
「南国から入ってきたフルーツなので、三宅島が暖かいことがパッションフルーツに向いている第一の理由ですね」と前田さんは語ります。

追熟することで際立つ甘み

三宅島で育てているパッションフルーツは、台農1号という台湾由来の品種。その特徴は、採りたては酸味が強いものの、追熟すると甘みが強くなるということです。

火山と共に生きる果実


三宅島
出典:写真AC

火山ガスにも負けなかった不屈の果実

パッションフルーツが日本に入ってきたのは明治時代後期から大正時代初期と伝わっています。本格的に栽培されるようになったのは1950年代、まだアメリカの統治下にあった沖縄県でした。

三宅島での栽培が始まったのは21世紀になってから。現在のように栽培されるきっかけとなったのは2000年の三宅島噴火でした。
2000年6月26日に始まった雄山の噴火活動。一度は終息の気配もありましたが7月から活動が活発化し、過去にないほどの大規模な山頂噴火が起こりました。9月1日には全島避難が決まり、住民は島外での生活を余儀なくされました。島は火山ガスで充満し、島民が島に戻れるまでに約4年5カ月もの月日を要したのです。

「火山の噴火前、三宅島はレザーファンなどの切葉の栽培が盛んだったんですが、火山ガスでほぼ全滅してしまいました。新しい農作物を考えようということになったとき、候補になったのがパッションフルーツでした」と前田さん。

現在は7名の農家がパッションフルーツを栽培

前田さんは、パッションフルーツ栽培を始める前、東京都島しょ農林水産総合センターに勤務していました。その頃、試験栽培をしていたものの一つがパッションフルーツでした。火山噴火の被害のなか生き残っていたため、「三宅島での栽培に向いているのでは」という声が上がったといいます。

前田さんがパッションフルーツの栽培を始めると同時に、三宅島でパッションフルーツ生産部会も立ち上げました。現在は7名の会員がお互いに助け合ってパッションフルーツの育成に携わっています。

おいしさの裏にある工夫と苦労


パッションフルーツ1つひとつにネットをかける前田さん
写真提供:前田洋一

認証も取得

前田さんが個人で「新東京都GAP」の認証をとっているほか、部会で「東京都エコ農産物」の認証を受けています。
東京都GAPは食品安全、環境保全、労働安全などの持続可能性を確保するための取り組み。東京都エコ農産物は、土づくりの技術や化学合成農薬と化学肥料削減の技術によって、農薬、化学肥料を削減して作る農産物です。

よりよい果実を育てるために。島の農家のこだわりとは?

パッションフルーツを収穫する前田さん
写真提供:前田洋一

三宅島では、パッションフルーツが傷つかないよう一つひとつにネットをかけ、樹上で完熟して自然に落下したものを収穫。時間や手間を惜しまず、ていねいに育てられています。
牛ふんやバーク堆肥(樹木を発酵させてつくった有機肥料)、緑肥などを用いた、より安心安全なパッションフルーツを食卓に届ける努力を重ねています。

その中でも前田さんは、パッションフルーツを生で味わってほしいからと、農薬不使用にこだわっています。
「農薬を使わないため、多少は害虫による被害が発生してしまいますが、より安全なパッションフルーツを召し上がっていただきたい思いでやっています」

もう一つのこだわりは、多年草のパッションフルーツを毎年植え替えていること。2年、3年と同じ苗を使う方法もありますが、収穫時期が安定しないため、三宅島パッションフルーツ生産部会では収穫が終わったら片づけてすぐに次の苗を植えるという方法をとっています。
できるだけ、多くの人へ届けたいという願いがそこに感じられます。

三宅島から食卓へ。島の恵みを届けたい


三宅島のパッションフルーツ
写真提供:前田洋一

「パッションフルーツはまだまだ知名度が高いとはいえないフルーツです。名前くらいは聞いたことがある程度で、実際に味わったことがないという方が大半だと思います。どこかで見かけたら、ぜひ手に取ってみて香りをかいだり食べたりしてほしいというのが我々生産者の願いです。」と前田さん。
三宅島産のパッションフルーツ、ぜひ体験してください。

▼三宅島のパッションフルーツをチェック

一社)三宅島農業振興会Webサイト:三宅島農業振興会 – 「農業」で三宅島を支え、希望ある未来づくりに貢献する https://nohshin.com/

BASE販売サイト:三宅島農業振興会 https://nohshin.base.shop/

▼三宅島のパッションフルーツが都内のレストランで味わえる

東京産パッションフルーツ産地リレー式メニューフェア:https://www.tokyo-aff-fc.jp/event/detail/id=879

※三宅島産のパッションフルーツは8月2日(土)から提供を開始する予定です。

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