水族館で野菜の栽培!?水族館が取り組む循環型の栽培方法とは?
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公開日:2025年03月26日
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農作物の栽培方法には、土で育てる土耕栽培のほかに、水と液体肥料だけで育てる水耕栽培があります。
その水耕栽培の中でも、環境への負荷を軽減できる「アクアポニックス」という農法が近年注目され始めていることをご存じでしょうか。今回はその「アクアポニックス」の概要や仕組みを知ることができる展示を新たに公開したしながわ水族館にお話を伺いました!
しながわ水族館にあるアクアポニックス水槽とは?
しながわ水族館は、東京湾の生態系を再現した展示やイルカショーなどが楽しめる、品川区にある水族館です。館内の地下1階(海底フロア)を進むと、一角に複数並んだ小さな水槽と、その上で青々と育つ野菜が目に入ります。これが、今回詳しくお話を伺った、2024年12月に公開されたばかりの「アクアポニックス水槽」です!

「アクアポニックス」とは、水産養殖を意味する「アクアカルチャー」と、水耕栽培を意味する「ハイドロポニックス」を組み合わせた造語であり、その名の通り、魚の養殖(飼育)と野菜の水耕栽培を、同じ水を使って同時に行う循環型農法です。
水質悪化の原因となる魚のフンなどから出る有毒なアンモニアを微生物が毒性の低い硝酸塩へと分解し、野菜がその硝酸塩を吸収し育つことで硝酸塩が取り除かれた水が、また魚の水槽へと戻っていくのです。このような仕組みによって、魚の飼育水で野菜が育つという、魚と野菜が共存する循環型の農法を実現しています。


しながわ水族館の「アクアポニックス水槽」では、仕組みを実際に観察することができるのです。 取材日はリーフレタスやブロッコリーなどをメインに栽培をされていましたが、今後は季節によって小松菜などの栽培を試す他、飼育する魚の入れ替えをしていく予定だそう。
季節によって種類を変えていくことで、何度訪れても違った野菜や魚の展示でアクアポニックスを楽しんでもらうことができる、可変性の高い展示コーナーとなりそうです。
展示を通して環境意識を変えるきっかけに

「アクアポニックス水槽」の導入には、近年重要視されているSDGs(持続可能な開発目標)の考え方が背景にあるのだと、担当者の久保沙紀子さんは語ってくださいました。
環境意識の高まりが強くなっている時代の流れを汲んで生き物や水に関する学びの場としての役割を担っている品川区の施設としても、ただ生き物の様子を楽しんでもらうだけでなく、環境意識も高めるような取り組みができないかと考えていたそうです。
そんな中、系列の水族館で既に導入されている「アクアポニックス」を知っており、魚と水に関係している上に環境負荷を軽減できるこの農法をしながわ水族館でも展示するのがいいのではないかと考え、話を進めることにしたのだそう。
そして、しながわ水族館の事業主体である品川区にこの話を伝えたところ「ぜひ進めてほしい」と後押しもあったことで、この「アクアポニックス水槽展示コーナー」が導入されるに至ったのだと言います。
取材当時は、導入から数ヶ月が経過しており、とても水質が安定した状態で展示されていました。 水質が安定するバランスを見つけてからは、基本的にはほとんど放っておいても安定した水質のまま循環するようになり、手入れの頻度も、他の水槽と比べると格段に楽で、手間がかからなくなっていると、笑顔で語って下さいました。
アクアポニックスが生み出す価値とは
アクアポニックスは水耕栽培のため、他の栽培方法に比べても比較的場所を選ばずに導入することができ、しながわ水族館でも室内かつ地下の鑑覧通路で展示することができていました。 野菜に必要な光を用意し水質が安定しさえすえれば、規模の拡大・縮小も可能なだけではなく、観葉植物を育てれば鑑賞用のインテリアとしても活用することができるなど、楽しみ方の選択肢が広い点も魅力です。
しながわ水族館では、水族館ならではの活用方法として、栽培した野菜を生き物のエサとすることも想定しているのだとか。実際に給餌解説にて、「アクアポニックス水槽展示コーナー」で育てた野菜を食べる魚の姿を、訪れた方に見せることもできるように、魚を野菜に慣らしている最中なのだそうです。お話を聞いている間にも、実際に栽培したレタスをナンヨウハギなどに与え、魚が集まって食べている様子を見せていただくことができました。

栽培できるものはリーフレタスなどの他にも、いちごや家庭菜園で人気のあるトマトなど多数選択肢があるため、個人でも好みに合わせて十分に楽しめる栽培方法でもあるのだとか。また、無農薬で栽培することができるという点も、アクアポニックスを導入する理由として十分なものとなりそうです。
このように、魚のフンなどを栄養にして育った野菜がまた水族館の生き物達の栄養となる、まるで小さな地球のようなサイクルがしながわ水族館内で実現されようとしています。
この「アクアポニックス水槽」の展示が、水族館を訪れる方々の学びや環境に配慮された農法の普及につながり、人々の環境意識も少しずつ動かされていくことが期待されます!
▼取材協力
しながわ水族館
https://www.aquarium.gr.jp/
取材者:大学4年生E・H
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